JOURNAL

2025.1.31

エルエア滞在によせて 金井悠

エルエアで滞在制作を行ったアーティストからの寄稿文を紹介します。今回は2024年10月21日から2025年1月15日の期間中滞在した陶芸家・金井悠。3ヶ月の滞在を経てアーティストの見たものや感じたこと。

アーティスト・イン・レジデンスなるものの経験は、グループで活動していた時期に何度かあるものの、個人としては今までありませんでした。しかし今回は特定の素材(私にとっては異素材)を使うというお題のある、少々変わったタイプの企画ということで、私の心は動かされました。

レジデンス開始当初は、誰も見たことのないレザーの表情を生み出したいと考えていました。

しかし色々なアイデアが浮かんでは消え、実験を繰り返すもなかなか上手くいきませんでした。

今にして思えば、初めて真正面から個人としての能力が試される機会であり、また第一回目の滞在アーティストということで、多少の気負いがあったのかもしれません。

そうしたなか出会ったのが、原皮にクロム鞣しを施した淡い青色のレザー「ウェット・ブルー」を、厚さ調整のため削り出す際に出るシェービングくずでした。

「ウェット・ブルー」はこの後さらに様々な工程を経て製品になっていくわけですが、この状態はいわば「皮」から「革」へと変身を遂げた直後の姿なのです。

余談ですが、「ウェット・ブルー」とは、現物の印象も相まって、なんとまあしっとりとした質感を感じさせる、どこか詩的な響きのある名前なのでしょうか。

兎にも角にも、これまで真っさらな自分として素材そのものに向き合おうと努めていたところから、良くも悪くも、自らのバックボーンである陶芸の制作スタイルに寄せて考えることで、方向性が見えてきたのです。

とはいえ、今回のレジデンスでの制作物の中に陶磁器は含まれていません。これまでの陶芸作品の制作で試行錯誤してきた技法や、その中で育ってきた考え方を応用しつつ、皮革製造の複雑なプロセスまでをも想起させる作品になっていればと願っています。

今回のレジデンスに参加する以前はレザーの知識が全くといっていいほど無かった私ですが、滞在期間を通してほんの少しは理解が深まったような気がしています。それと同時に、この素材の持つ多様性や潜在能力にも気付かされました。

しかしこの滞在期間の中で多くのことを実現するには、圧倒的に知識量も時間も足りないということが分かりました。

自分も運営側もお互いノウハウが無い手探り状態で、見切り発車感のあるなか進んでいったレジデンスですが、だからこそ積極的に意見を交わすなど、より良いレジデンスプログラムを作り上げていく為のいい意味での実験台になれたという楽しさはありました。

しかし自身の楽観的性質が災いした部分も大いにありますが、もっとこう動いていれば色んな事が出来たんじゃないか、もっと面白いものを作れたんじゃないか、という悔いは正直残っています。

この素材を使ってやれる事はまだまだ沢山あると思いますが、それは次回以降に滞在するアーティストに期待して、見守っていきたいと思っています。


L-AIR season1 ARTIST
KANAI, Yu @yylloopp
the 21st of October, 2024 → the 15th of January, 2025

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